医師(医師、歯科医師)が違法・不当な行為を行った場合、法的に『行政処分』という手続きが取られます。『行政処分』には『戒告』『医業停止・歯科医業停止』『免許取消』の三種類あり、そのうち戒告以外は医療という仕事ができなくなるという、非常に重いペナルティが科されます。わいせつ行為は刑事事件として扱われますから、そのような行為をしてしまうと医道審議会によって審議され、中でも最も重いペナルティである『免許取消』が下される可能性があります。
このようなトラブルに巻き込まれてしまった場合、不起訴処分獲得に向けた迅速な対応が不可欠です。
わいせつ行為~強制わいせつとは
『強制わいせつ』とは、13歳以上の男女に対して暴行・脅迫を用いてわいせつな行為を行うこと、および13歳未満の男女に対してわいせつな行為を行うことで成立する犯罪を指します。
すなわち、客体(行為の相手方)が13歳以上のときは、承諾がある場合には本罪は成立せず、わいせつな行為を行う手段として暴行・脅迫が要求されます。一方、客体が13歳未満の場合は、行為に承諾があったとしても本罪が成立します。
なお、本罪の行為の主体(行為をはたらく者)については男女を問わず、また主体と客体が必ずしも異性である必要はありません。
※適用法令
<刑法176条(強制わいせつ)>
十三歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
わいせつ行為に関する事例
以下では、医師と従業員、医師と患者様の間で発生したわいせつ事件を紹介します。
1 従業員に対してわいせつな行為をしてしまった事例
当事者の情報 | 滋賀県 40代歯科医師 |
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事案の概要 | 2008年2月上旬深夜、自身が経営する歯科医院で、従業員の女性の顔を殴るなどして押し倒し暴行しようとした。 |
司法の処分 | 強姦致傷(懲役3年、執行猶予4年) |
行政の処分 | 歯科医師免許取消し |
手続の内容 | 刑事事件で有罪判決確定。 厚生労働省は2010年9月22日の医道審議会医道分科会に審議を諮問し、答申を受けて処分内容を決定。処分は10月6日に発効。 |
2 患者に対してわいせつ行為をしてしまった事例
当事者の情報 | 埼玉県 30代医師 |
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事案の概要 | 2011年2月下旬、足の手術のために入院していた県内の当時18歳の少女に対し「手術前の説明をする」と病院内の個室に呼び出し、下半身など触るわいせつな行為をした。 |
司法の処分 | 準強制わいせつ(懲役2年) (さいたま地裁平成24年2月23日判決) |
行政の処分 | 医師免許取消し |
手続の内容 | 刑事事件で有罪判決確定。 厚生労働省は2014年2月27日の医道審議会医道分科会に審議を諮問し、答申を受けて処分内容を決定。処分は同年3月13日に発効。 |
当事者の情報 | 千葉県 40代歯科医師 |
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事案の概要 | 診察中に診療台であおむけにさせられ局部麻酔中で抵抗しがたい被害者女性をだきしめるなど、悪質でわいせつな犯行をした。 |
司法の処分 | 強制わいせつ(懲役2年、執行猶予4年) (東京地裁平成24年1月16日判決) |
行政の処分 | 歯科医師免許取消し |
手続の内容 | 刑事事件で有罪判決確定。 厚生労働省は2012年11月14日の医道審議会医道分科会に審議を諮問し、答申を受けて処分内容を決定。処分は同月28日に発効。 |
当事者の情報 | 千葉県 50代医師 |
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事案の概要 | 2006年4月、同月7月、2007年4月の3回、勤務先の病院の婦人科診察室で、診療と称して20~30歳代の患者女性の服を脱がせて下半身をデジタルカメラで撮影するなどした。また、2007年4月には病院の女子トイレ内を盗撮するなどした。 |
司法の処分 | 準強制わいせつ、軽犯罪法違反(懲役3年6月) (千葉地裁平成20年11月6日判決) |
行政の処分 | 医師免許取消し |
手続の内容 | 刑事事件で有罪判決確定。 厚生労働省は2011年2月23日の医道審議会医道分科会に審議を諮問し、答申を受けて処分内容を決定。処分は3月9日に発効。 |
刑事事件が発覚してしまったら
刑事事件はスピードが命です!
上記のような重大事件が発覚することはまれですが、医師と患者様という関係では診療において患者様の身体に直接触れる機会も少なくありません。また、治療行為とわいせつ行為の境界線は曖昧なものであるとも考えられます。たとえ故意ではなかったとしても、患者様が不快に感じ、トラブルに発展するケースも存在します。思わぬことから刑事事件に発展し、罰金以上の刑を犯してしまった場合には、医道審議会の審査対象となり、医師免許の停止や取消し処分がなされるおそれがあります。そのため、刑事事件が発生した際には、起訴猶予処分や不起訴処分を求め、また医院の存続に努めるよう速やかな弁護活動が必要となります。
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