残業代を支払わない労働契約は無効
残業代は労働者の権利です。
労働基準法で定められた労働時間、すなわち原則として1日8時間または1週40時間を超える労働をさせた場合、使用者は労働者に対して残業代を支払わなければなりません。
たとえ面接の際に残業代を支払わないという合意を交わしていたとしても、その合意は労働基準法に反し無効となります。
残業代を支払わないことのデメリット
「コストカットしたいから残業代は支払わない!」
経営者のお気持ちは分かりますが、実際に未払いがあった場合、後にスタッフから未払い残業代を請求されると、その支払いから逃れることはできません。
さらにこういったケースの多くは、複数のスタッフが共同で訴訟を起こします。当然、スタッフ側の勝訴が決まれば人数分の未払い残業代を支払わなければなりませんので、一度に数百万円単位の金額を支出することになり、医院の経営を圧迫することにつながります。
また、労働基準法は、悪質な未払いの場合、最大で未払い金と同額の付加金を命じることができる旨を規定していますので、払い渋りがさらなる窮迫を招いてしまうおそれがあります。
もちろん、残業代の支払い義務は労働基準法に規定がありますから、メリット・デメリット以前の問題にはなりますが、あえてこれらのデメリットをふまえてお話すると、はじめから残業代を適切に支払っておく方が、労働者にとってはもちろん、医院の経営にとってもプラスであると言うことができます。
タイムカードを作る意味
「タイムカードを用意しなければ労働時間がわからなくなるから、残業代も支払わなくていいだろう」と安易に考える経営者の方もいらっしゃいます。
しかし、実際は他の記録から労働時間や残業時間の算定をすることが十分に可能です。たとえば、スタッフが医院のパソコンを使用していた時間、業務上のメールを送信した時刻などの記録を用いることで、タイムカードの有無に関わらず裁判所が残業時間の認定をするケースがあります。
特に医院では、開院時間で拘束されていることも多いですし、カルテや業務日誌において稼働時間が算定しやすいと言えます。
それでは、いずれ請求されるのであればタイムカードを作らなくてもよいのかというと、そうではありません。前提として、使用者には「労働者の労働時間を適切に管理する」責務があります。したがって、タイムカードを用意しなかったこと自体に悪質性が認められ、上述の付加金が課されることも。
不測の損失を防ぐためにも、日頃からタイムカードで労働時間を適切に管理しておくとよいでしょう。
休憩時間としていても残業代が発生する場合がある
医院勤務では、通常の会社勤務とは異なり、午前と午後の診療時間の間が長く開いていることから、休憩時間が長く設定されている場合があります。
休憩時間であるから就業時間とはされずに残業代は発生しないと思われるかもしれませんが、休憩時間であっても、急患が来たら対応することになっていたり、医院内での待機を命じていると、休憩時間ではなく、労働時間として給与が発生すると判断される可能性があります。
労働時間と判断されないためには、休憩時間とする場合に労働者を労働から解放していることがのちに確認できるような体制をとっておく必要があります。
当事務所では、医院の労務問題を数多く取り扱っております。スタッフの残業代についてお困りの際は、お気軽にご相談ください。