医師による交通事故
医師(医師、歯科医師)が自動車等を運転中、交通事故を起こし、医師法が定める医師の相対的欠格事由(医師法第4条)に該当することとなった場合には、医道審議会で審議が行われた後、厚生労働大臣から行政処分が下されます。
行政処分には、処分の程度が軽い順に、戒告、三年以内の医業停止、医師免許の取消しといった3種類の処分が法定されています。このうち、戒告を除く行政処分は、文字通り、医業が行えなくなるという点で医師にとって、非常に不利益な処分を下されるということになります。
医師の交通事犯に対する行政の考え方
自動車等による交通事犯については、誰でも不慮に犯してしまう可能性のある行為であり、また、医師としての業務と直接の関連性がなくその品位を損する程度も低いことから、基本的には戒告等軽度の処分として取り扱われるケースがほとんどです。
ただし、医師が事故を起こした後、被害者に対する救護義務を怠ったひき逃げ等の悪質な事案については、人の命や身体の安全を守るべき立場にある医師としての倫理が欠けていると判断され、程度の重い処分が下されることがあります。
なお、この場合には、刑事処分の量刑などを参考に決定されます。
※1:医師法第七条第二項
2 医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。
一 戒告
二 三年以内の医業の停止
三 免許の取消し
※2:医師法第四条
次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。
一 心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
二 麻薬、大麻又はあへんの中毒者
三 罰金以上の刑に処せられた者
四 前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者
交通事故に関する事例
以下では、行政処分において「医業停止」以上とされた重大な交通事犯を紹介します。
当事者の情報 | 福岡県 40代医師 |
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事案の概要 | 2009年5月24日夜、自宅で酒を飲んだ後、乗用車を運転し、会社員男性の運転する乗用車と衝突し、男性と同乗の女性の2人に怪我を負わせてそのまま逃走した。 |
司法の処分 | 自動車運転過失傷害 |
行政の処分 | 医業停止1年6カ月 |
手続の内容 | 刑事事件で有罪判決確定。 厚労省は2010年9月22日の医道審議会医道分科会に審議を諮問し、答申を受けて処分内容を決定。処分は10月6日に発効。 |
当事者の情報 | 福島県 40代歯科医師(歯学部准教授) |
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事案の概要 | 2011年5月26日午前9時25分頃、郡山市字亀田西の国道4号バイパスで、酒に酔って乗用車を運転し、前を走行していた乗用車に衝突。4台が絡む玉突き事故を起こし、4人にケガを負わせた。 |
司法の処分 | 危険運転致傷(懲役1年10月、執行猶予3年) (福島地裁郡山支部平成23年8月19日判決) |
行政の処分 | 医業停止2年 |
手続の内容 | 刑事事件で有罪判決確定。 厚労省は2012年11月14日の医道審議会医道分科会に審議を諮問し、答申を受けて処分内容を決定。処分は同月28日に発効。 |
刑事事件が発覚してしまったら
刑事事件はスピードが命です!
上記のような重大事件が発覚することはまれですが、たとえ医師の業務とは直接関係ない交通事故であったとしても、刑事事件で罰金以上の刑を犯してしまった場合には、医道審議会の審査対象となり、刑事罰のほかに医師免許の停止や取消し処分がなされるおそれがあります。小さな事故だからと安易に考えてはいけません。刑事事件となるおそれがある場合には、起訴猶予処分や不起訴処分を求め、また医院の存続に努めるよう速やかな弁護活動が必要となります。
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